1960年代後半から普及が始まった産業用ロボットは、今や世界中で生産ラインに導入され、日夜休まず動き続けることで人々の豊かな生活を支えている。その一方、ロボットの性能が向上し稼働効率の最大化が進むにつれ、メンテナンスの重要性は高まってきた。ロボットに何かトラブルが発生した際、24時間365日、いつでもどこでも駆けつけて復旧させるメンテナンスが求められるようになっている。今回は、“お客様の生産ラインのダウンタイム(※)削減 “をコンセプトにした「遠隔支援サービス」を立ち上げた背景やストーリーについて、企画を担当した志磨勇亮氏のインタビューをもとに紹介する。
※ダウンタイム:故障や供給遅延などの原因で生産ラインや製造プロセスが停止する状態
ロボット設備が止まると生産活動が停止する
お客様の生産ラインで稼働するロボット設備に何らかのトラブルが発生した場合、設備復旧に費用が掛かるだけでなく、復旧までのあいだ生産がストップすることで「生産量減」というダメージが発生する。そのため、ロボット設備の故障停止は、お客様にとって一刻を争う事態である。
-どのような業務を担当されていますか?
志磨:カワサキロボットサービス株式会社は川崎重工ロボットの導入から稼働時の点検・整備・故障サポート、設備更新までをワンストップで対応しています。私は販売部に所属しており、新しい顧客サービスを創出し、アフターサービスビジネスを拡大する企画を担当しています。
遠隔でもできることはないだろうか?
-「遠隔支援サービス」の検討を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
我々は全国に拠点を持ち、お客様の現場に急行できるメンテナンスサービス体制を保有しています。それでも、突然のトラブル発生時に当社エンジニアをアサインし、最寄りの拠点からお客様の現場まで急行し、原因調査を行い、適切な処置を講じて設備を再稼働させる、という一連の対応は、どうしても遠方のお客様ほど復旧まで時間がかかってしまうという課題がありました。
そこで、拠点から地理的に離れたお客様に対しても、これまで以上にサポートを充実させたいという思いがありました。ちょうど、新型コロナウイルス禍だったこともあり、当社側の人員調整だけでなく、お客様も当社エンジニアの受け入れに手間がかかっていました。また、その分が電話問い合わせの急増という形ではね返ってきてしまったことで、社員が常に電話対応に追われているという実態も見えてきて、本格的に検討をしよう、ということになりました。
-なるほど、それで遠隔でできることを検討しはじめたのですね。
はい。リモ-トでは実際にロボットに触って作業することはもちろんできませんが、「現地に行かなくてもできること」があれば、それを遠隔で行うことで時間短縮や効率化につなげられるのではないか?と考え始めました。
-お客様のために考えたソリューションが、自分たちの改善にもつながったということですね。
とはいえ、これまで当社が行っていた業務の仕組みとは全く異なることなので、検討はゼロからの手探りでしたし、社内からも厳しい声が上がるなど、進めるのはとても苦労しました。
地道な検討作業を続けた
-どんなかたちで手探りの検討を進めたのでしょうか?また、大変だった点はどんなところですか?
まずはお客様のもとを実際に訪問し、お客様の課題を徹底的にヒアリングし、分析を行いました。全国を飛び回りましたね。忙しい中でも快く協力してくださるお客様が多く、助かりました。
その後も、遠隔支援サービスに使用するハード/ソフトの選定には苦労しました。かなりの時間を費やしましたね。遠隔でコミュニケーションできるツールは無数にありますが、画面や音声の品質だけでなく、ロボットの知識があまりないお客様とも「あれ」「これ」みたいな曖昧表現でコミュニケーションしたいとか、携帯性や料金体系なども踏まえて多くのツールを実際に試しました。
-地道な作業が続いたのですね。ツールが決まった後はどのように進みましたか?
ツールを決め、トライアルも行い、料金体系も検討し、「これはいける」と思ったのですが、実際にそれを使って遠隔でお客様とやりとりする当社のエンジニアに使いこなしてもらう必要があります。そのために、今度は社内を飛び回りました。全国のエンジニアにこのサービスやツールを理解してもらうため、何度も説明会を実施しました。
度重なる試行錯誤を経て、ついに形になった「遠隔支援サービス」。いよいよお客様への導入が決まる。
リモート保守サービス
- 画面、音声などを共有しリアルタイムのコミュニケーションツール
- 部品の呼称が異なる場合や抽象的な表現でも意思疎通が可能
- 問い合わせのスピードが向上
イメージ図
いよいよサービスインへ
-遠隔支援サービスを実際にお客様に提案した時はどうでしたか?
我々にとってもお客様にとっても新しいものですから、最初は特に丁寧に、コンセプトやメリットを説明しました。併せて、過去に起きた実際の故障対応事例と、遠隔支援サービスで初動対応したシミュレーションを比較し、費用対効果を明確にして提案活動をしました。また、試用期間を設けて、その間は特に丁寧に社内外のサポートを行いました。その結果、導入していただくことができて、大変嬉しかったです。
導入の効果は
-地道な活動が功を奏して導入が始まったわけですが、スタートしてみて反響はいかがですか?
喜んでいただいています。たとえば、「ロボットの動作プログラムが正しく選択されず動作開始しない」というトラブルの問い合わせがあり、遠隔支援サービスで対応した結果、20分で解決し、稼働再開することができました。従来であれば、エンジニアの到着だけで、すでに1時間はかかっていたお客様です。
また、部品購入の問い合わせにも活用しています。ロボットは多くの部品で構成されていますが、お客様から問い合わせがあった際、これまでの「どこどこにこういう形状の部品があって・・・」と電話で伝えるやりとりでは、部品の特定だけで20分ほどかかっていましたが、遠隔支援サービスで画面共有しながらコミュニケーションすることで5分で解決することができました。
さらにお客様に寄り添ったサービスを
-新しい企画のうち、軌道に乗るのはごく一部だと思います。遠隔支援サービスが軌道に乗ったキーファクターはなんだったのでしょうか?
お客様の顕在ニーズだけでなく、さらに高付加価値である潜在ニーズまで引き出せたことです。遠隔支援サービスですぐにトラブルを解決することで、生産性を維持できるだけでなく、人件費の削減や残業時間の低減にも繋がることを訴求しました。またお客様同士でサービス活用してもらうことで、社内のコミュニケーションツールにもなることも提案しました。その結果、多くのお客様に遠隔支援サービスの価値を感じていただくことができたと考えています。
-いろいろな活用ができそうですね。今後の展開や野望はありますか?
遠隔支援サービスが無事に導入できたのは、ロボットの修理を早く行うだけではなく、それがお客様の課題を解決できる製品になったからだと思っています。今後もお客様とのコミュニケーションを通じ、課題を見つけ、それを解決するソリューションを開発していきたいと思っています。当社製のロボットは世界中で使われていますから、今後は海外へも展開していきたいですね。