川崎重工グループが、2030年に目指す将来像として推進する、グループビジョン2030「つぎの社会へ、信頼のこたえを~Trustworthy Solutions for the Future~」。ロボットが実現する注力フィールドをテーマに、川崎重工グループをリードする3人のキーパーソンが語る。

日本初の産業用ロボットメーカーとして、50年以上にわたりロボットと向き合ってきた川崎重工。コロナ禍でロボットへの期待が高まる中、どこに向かおうとしているのか。川崎重工の新しい取り組みである「Nyokkey」「Kaleido」「ROBO CROSS」はロボットの社会実装にどのように寄与していくのか。川崎重工 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン長の髙木 登氏にインタビューしました。
ー 今後のビジョンについてお話いただくにあたり、まずはこれまでの川崎重工の歩みを振り返らせてください。
髙木氏:
1969年に米国・ユニメーション社との技術提携をきっかけに、Kawasakiは日本初の産業ロボットメーカーとして産声をあげました。
当初は自動車製造向けのロボット開発を主としており、1990年頃には自動車メーカーの海外進出と共に、カワサキロボットも海外進出を果たしました。
1995年頃には新たに半導体ウェハ・液晶基板搬送に特化したクリーンロボットの開発に着手。自動車業界と半導体業界は今でも私たちのビジネスの大きな部分を占めています。
一方で、新たな業界への取り組みも積極的に進めています。2013年に医療機器メーカーのシスメックスとの合弁でメディカロイドを設立して医療業界へも参入しました。手術支援ロボットの「hinotori™」はすでに100症例以上の実績があります。
2015年には人と一緒に作業ができる「人協働ロボット」というコンセプトで双腕スカラロボットのduAroも発売開始しました。
振り返ると、常に新たな産業用ロボットの道を拓いてきた50年だったように感じます。

ー 川崎重工は総合エンジニアリングメーカーです。他のカンパニーとのシナジーはあるのでしょうか?
髙木氏:
Kawasakiには、さまざまなものを製造している現場があります。そのため他のカンパニーの製造現場でロボットを使うというケースは非常に多いです。自社の設備だからこそ、時間をかけてでも自動化に取り組むような新しいチャレンジができることもあります。また、社内の現場は、社外のお客さま以上に厳しい意見も含めて率直な生の声を伝えてくれます。
そこは他社にはないメリットを感じますね。
また、当社は本社に技術開発部門があり、そこには全カンパニーの技術が集まります。そのため、ロボット開発をする上で、他のカンパニーの技術を活用することもできるわけです。
ー 現在、コロナ禍によりあらゆる分野でロボットへのニーズが高まっているように感じます。今後、川崎重工はどのようにロボットの社会実装を進めていくのでしょうか。
髙木氏:
近年、少子高齢化により日本の労働人口は減少していきます。今後、ロボットによる省人化・自動化のニーズは確実に高まるでしょう。
ただ、まだまだロボットの社会実装が進んでいない分野が多く存在します。それらの分野への社会実装を進めるにあたっては「人協働」「技能伝承」「ティーチング」「少量多品種生産」というキーワードがあります。
ひとつ目は「人協働」。これまで、ロボットを用いるためには、ロボットを柵で囲み、人が入れないようにしなくてはなりませんでした。ロボット専有の広いスペースを確保しなければならないのが導入にあたっての課題となっていたのです。
そのため、人と共存できる、人の隣でも作業できる。そんな人協働ロボットがロボット普及の鍵になります。人と協働するために安全性を確保しながら、いかに効率を上げていくのか。そこで私たちが提案したのが、先に述べた双腕スカラロボットduAroです。
ふたつ目の課題は、人の技術、感覚、判断を要する作業のロボット化です。これに対して、Kawasakiは、人が遠隔でコミュニケータというツールを操作することによって、ロボットを動かすことができるSuccessorという技術を提案しています。
遠隔操縦が行えるため、例えば3K(きつい・きたない・きけん)労働と言われる職場での作業から人を解放することもできます。
そしてSuccessorのもう1つの特長が、1人で複数のロボットを操作できるという点です。ロボットをすべて遠隔操縦する必要はありません。ロボットが得意な作業は従来通りティーチングをして自動化しておく。難しい作業のときだけ人が助けてあげたり、ロボットがミスをしたときだけ人が助けてあげる。そういった自動運転と遠隔操縦を組み合わせることが可能になります。1人でオフィスから工場の複数のロボットをサポートするということができるようになり、今までとは違うロボットの使い方になるのではないでしょうか。

髙木氏:
次の課題はロボットに動きの指示をする「ティーチング」です。今まではティーチングペンダントを使って教示を行っていましたが、操作が難しく、また都度教示しなければいけませんでした。
できるだけティーチングを簡単にするために私たちが提案しているSuccessorを使うこともできます。
一度遠隔操縦でロボットを動かすとその動きを覚えるので、人の動きをそのまま再現でき、次からはロボットが自動で作業できるようになります。即ち、これでティーチングできたことになります。
最後は「多品種少量生産」への対応です。今は製品のカスタマイズへのニーズが高まっているうえ、製品のライフサイクルが短くなっています。それらのニーズに対応するためには、その都度、生産ラインを変更しなくてはなりません。しかし、一度生産ラインにロボットを据え付けてしまうと融通が効かなくなってしまいます。それゆえに人の手で作業しなければならないという状況になっていました。
ならば、ロボット自体を動かせるようにしよう。そう考え、Kawasakiが開発したのがTRanbo(トランボ)です。ロボットに走行機能をつけ、コントローラーで動かせるようにしたものです。ロボットが柔軟に動けるようになることで、あらゆる分野でのロボット普及に拍車がかかっていくと思います。
ー ロボット自体が移動するという意味では、Nyokkey(ニョッキー)もあります。
髙木氏:
Nyokkeyは人間と同じように街中を走り回り、腕で作業をすることができるロボットです。これから実証実験を行っていく予定で、羽田イノベーションシティのFuture Lab HANEDAで、まずはロボットレストランを開業し、配膳、下膳、清掃などの業務を行う予定です。今後、Nyokkeyが現実世界のさまざまな場面で働けるようになることを期待しています。

ー これからさらにロボットが生活に溶け込むようになりそうですね。川崎重工のヒューマノイドロボット、Kaleidoも年々バージョンアップしています。今後、社会実装する日は来るのでしょうか?
髙木氏:
間違いなく来ます。今、数社から具体的な引き合いをいただいて、実証実験の段階に入ろうとしています。
私はロボットによる究極の自動化とは、ヒューマノイドロボットだと考えています。なぜなら、世の中のものは人間が何かをするようにできているから。例え6軸多関節のロボットであっても、人と同じ動きはできません。人間がやっていることをコピーして自動化しようとすると、それは絶対にヒューマノイドロボットになるわけです。
3K職場と言われる場所や災害現場などで、今後Kaleidoが活躍してくれることを期待しています。もう1つは製造現場の中でも過酷な労働環境。そういったところでもKaleidoが活躍してくれると良いですね。
ロボットの社会実装を促進するデジタルプラットフォーム
ー 今、社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。川崎重工としてのDXをロボットによる自動化にどのように活用していくかについて教えてください。
髙木氏:
Kawasakiとしても今、積極的にDXに取り組んでいるところです。DXのメリットは、データを共有して、利活用できること。
今、私たちはROBO CROSS(ロボクロス)というデジタルプラットフォームを作ろうとしています。Kawasakiのほか、インテグレーター、ベンダー、サプライヤーなど、ロボットのエンジニアリングチェーンにいるさまざまな方々やお客様にご参加いただく、オープンなプラットフォームの構築を目指しています。
そこに集まってきたデータ、アプリケーションを自由に利用できるようにすることで、ロボットの社会実装を促進できると考えています。
例えば、既存のロボット関係の設計データを活用することで、簡単にシステム設計が行えるようになる。また、ROBO CROSSを経由して、出荷されたロボットから継続的にデータを収集することで、消耗度に応じて点検のアラートを出すこともできます。
そして、最も大きな特長がデジタルツインによるシミュレーションです。干渉のチェック、サイクルタイム、動作時間などを、ROBO CROSS上でシミュレートして、そのまま現場で実装することができます。
これまでは事前に検討をしても、現場で再確認をして、微調整をする必要がありました。そのため、このプラットフォームが広がっていくことでロボット導入期間の短縮につながると考えています。
「これ、Kawasakiがやっているの?」という声が聞きたい

ー 最後に今後のビジョンについてお聞かせください。
髙木氏:
これまでKawasakiは製造現場である工場にロボットを導入することに尽力してきました。それはもちろん続けながら、これからは工場から街に出て、社会全体に貢献できるようになりたい。
先ほどお話ししたROBO CROSSが実現することで、Kawasakiは総合ロボットメーカーとして飛躍することができる。私はそう信じています。
今まであまりお付き合いをさせて頂くことのなかった農業、ヘルスケア、飲食業といった世界にもプラットフォームがあります。それらのプラットフォームとROBO CROSSが連携することで、互いにメリットを享受することができ、ロボットが製造業以外のフィールドに進出することにつながるのではないかと思います。
そしていろんな業界とつながって、最後には個人とつながりたい。BtoBtoCという形にはなると思いますが、個人の方がKawasakiの技術を知らずに使っているような。私たちは「Kawasakiインサイト」なんて言い方をしているのですが、「これ、Kawasakiがやっているの?」という、そのひと言を聞きたいんです。それが私個人の夢でもあります。