機械加工の現場では、多くの工程がロボット化されつつある一方、「バリ取り」工程は依然として自動化が難しい領域とされてきました。理由のひとつは、作業そのものが非常に“人の感覚”を必要とするためです。川崎重工の取組みについて紹介します。
なぜバリ取りはロボット化しづらいのか?
バリ取りとは、加工後の部品に残る鋭い突起を削り、仕上げる作業のこと。作業者は保護具を身に着け、重いグラインダを持ち、火花・粉塵・騒音の中で作業を行います。振動も大きく、怪我のリスクもある過酷な作業です。
自動化が難しい主な理由は以下の2点です。
① ワーク形状ごとに複雑なプログラムが必要
少しずつ形状が違うワークに合わせてロボットの動作を教える必要があり、ティーチングの手間が大きい。
② ワークの個体差に追従しづらい
寸法の微妙な違いを吸収しつつ“均一な押し付け力”で研削するのは、ロボットが苦手とする部分。
大量生産であればロボット導入のメリットがありますが、少ロットの場合、「ロボットプログラムを作る時間で作業者が手作業で終えてしまう」という状況が多く、導入が進みにくいのが実情でした。こうした現場の負担を軽減する新たなアプローチとして誕生したのが、川崎重工が開発した遠隔操作ロボットシステム「Successor®」です。

遠隔操作ロボットシステム「Successor®」とは
「Successor®」は、ロボットをあたかも“自分の手の延長”のように操作できるシステムです。作業者は安全な場所にいながら、工具を持って作業する感覚でロボットを動かせます。システムは主に以下の3要素で構成されます。
- ロボットアーム:用途に合わせて川崎重工のロボットを選定
- コミュニケータ:作業者が操作するインターフェース
- 制御PC:両者をつなぎ制御するPC
コミュニケータには3タイプがあります。
- Hexart:操作範囲は狭いが細かな力覚フィードバックが得られる
- Plesio:適度な操作範囲と力覚を両立
- Wizard:広い操作範囲をもち、自由度の高い動きが可能
用途に応じてツールのグリップ形状までカスタマイズできるため、幅広い作業に対応可能です。

大型研削への挑戦:「Successor®-G」
大型ワークへの研削適用として、当社エネルギーソリューション&マリンカンパニーは「Successor®-G」を開発しました。同カンパニーが扱う大型鉄鋼構造物のガス切断跡の研磨仕上げは、作業負荷が非常に高く、連続作業時間も制限される工程です。「Successor®-G」は、火花や粉塵から離れた安全な場所で作業できる環境を実現し、保護具なし・振動なしの快適な作業を可能にしました。作業者の身体的負担を大幅に減らすことで、労働環境改善に大きく寄与しています。

大型から小型の鋳物ワークの研削やバリ取り適用への挑戦:ChayaRobo
鋳物・アルミ・銅合金などのグラインダ作業(研削・切断)において高いノウハウを持つ茶屋テクノロジーとのアライアンスにより、「Successor®」はさらなる進化を始めています。重労働・粉塵環境から人を解放しつつ、“人の技”を活かした新しい加工スタイルの実現に挑戦しています。
① ワーク視認性の向上
茶屋テクノロジーの加工現場に試験システムを導入し、ハンドアイカメラの改良、固定カメラの追加、ズーム・チルト操作の拡張など、独自の工夫を重ねてきました。これにより、遠隔操作でありながらワークの状態や刃物の当たりを直感的に把握できる視認性を実現。熟練者だけでなく、誰でも扱いやすい操作環境を目指した改良が進んでいます。
② “ログ取得/再生”による少ロット生産の解決
Successor®は、人が操作した動きを“ログ”として記録し、同じ作業をロボットに再生させることができます。
これが少ロット生産では大きな武器になります。
- 1個目は人が遠隔で作業
- 2個目からはロボットがログをなぞって自動実行
人の判断力とロボットの再現性を組み合わせることで、省人化と作業品質の安定化が同時に実現できます。
③ ノウハウを生かしたオリジナルグラインダツール
茶屋テクノロジーは鋳物加工に精通しており、その知見からベルトサンダー方式のツールを独自開発。ワークのバラつきにも対応できる機構を備えています。さらに、エンドユーザ向けには、重労働の代表例である押湯の切断や研磨作業に対応する高周波グラインダのオリジナルツールも開発中。ツールチェンジ機能を活用し、研削・切断・仕上げといった複数工程も一台でこなす構想も進んでいます。


川崎重工ロボットビジネスが目指す未来
川崎重工ロボットディビジョンは、パーパスとして「ロボットと生きる 喜び豊かな未来をささえる」を掲げています。
バリ取りのような“人の感覚”を要する作業領域においても、Successor® が人とロボットの新しい協働スタイルを拓き、現場の安全性向上・負荷軽減・技能継承に貢献することを目指しています。
製造現場の課題は多様で複雑ですが、私たちはSIerのみなさまと共に、現場に寄り添った技術開発・製品開発を進め続けます。ロボットが人の可能性を拡張し、誰もが安心して働ける環境を実現する――。川崎重工はこれからも、その未来を力強く支えていきます。