World Robot Summit開催 ― 産業用ロボットで挑んだ高難易度の「製品組立チャレンジ」レポート

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World Robot Summitプレ大会が開催

2018年10月17日〜21日の5日間に渡り、東京ビッグサイトにて、ロボットの国際大会「World Robot Summit 2018」(WRS2018)が開催されました。WRSは、少子高齢社会を背景に、ロボットの社会実装を促進することを目的として、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するロボットの一大イベント。東京オリンピック・パラリンピックと同じ2020年に本大会(WRS2020)が開催される予定で、WRS2018はそのプレ大会として実施されました。

本記事では同大会の「ものづくり」競技会にスポットを当て、世界各国のロボットエンジニアや研究者たちによる白熱した競技の様子をお届けします。

そもそもWorld Robot Summitプレ大会とは?

WRS2018は世界各国の企業が集う、ロボット展示会「World Robot Expo」と、各国の企業や団体が一同に介すロボット競技会「World Robot Challenge」で構成されています。

ロボット競技会「World Robot Challenge」では、「ものづくり」「サービス」「インフラ・災害対応」「ジュニア」という4つのカテゴリーで9種目の競技が実施されます。23の国・地域から126チームが参加しました。「ものづくり」カテゴリーには、16チームが出場。アジアや欧米からの参加が半数を占めていました。

今回レポートするものづくりカテゴリーの「製品組立チャレンジ」は、「『迅速な一品ものづくり』を目指して」というコンセプトのもと、ロボットの社会実装を加速するために、ものづくり産業でのニーズに応えるための技術を競い、実際の現場で使える生産システムを目指すことが競技の主旨となっています。実際の生産現場での活用を見越しているため、迅速に組み立てることはもちろん、急な段取り変更への対応など、緻密に競技の設計がされています。

ロボットの社会実装を進める目的のもと、競技には生産現場で実際に活躍する産業用ロボットが使われます。この点は、競技参加チームがロボットを開発する、いわゆる”ロボコン”とは違った見どころです。参加チームは独自で手配したロボットや、企業が貸し出しているロボットを使うことができます。

WRS2018のグローバルパートナーとして協賛している川崎重工もロボットを提供。首都大学東京の学生が構成するチーム、「hippopoTaMUs」が川崎重工の小型ロボット「RS007」を使って競技に臨みました(その様子は後ほど)。

「製品組立チャレンジ」の競技ルール

「製品組立チャレンジ」で「製品」として設定されたのは、モーターやベルトなど18種類の部品で作る「ベルトドライブユニット」。正しく組み立てて電源を繋げると、紐を巻き上げて先についているどら焼きが持ち上がり、 大会のサポートキャラクターであるドラえもんのもとに届けられる仕掛けです。

どら焼きを食べられるかどうかはベルトドライブユニットの完成度次第

製品組立チャレンジは、「タスクボード」「キッティング」「組立」という3つのタスクで構成。各タスクに点数が設定され、合計550点の獲得点数を競い合います。

タスクボードタスク
部品の認識・把持や全自動教示などの要素技術の高さを競う競技。マットの上に置かれたベルトドライブユニットの部品を、ボード上の所定の位置に組み付ける必要があります。部品は競技開始の10分前に配布されるので、事前に時間をかけてロボットの動きをプログラミングすることはできません。配点は100点。

キッティングタスク
組み立ての準備作業。大中小3種類のコンテナの中から、必要な個数だけ部品を取り出し、トレイ上の指定された場所に並べる必要があります。部品はコンテナの中に乱雑に積まれているので、きちんと部品を認識して、1つひとつピックアップする技術が求められます。配点は150点。

組立タスク
ベルトドライブユニットの組み立てを行います。プレートにモーターを押し当て、反対側からネジを入れて固定するなど、3つの部品を同時に扱う場面もあるため、2つのアームを使ってうまく連携させる必要があります。ベルトのような柔らかい素材を扱うのも、難易度が高いところです。

組立タスクは2日間実施します。組立タスク1日目の部品はすべて事前に公開されていますが、2日目には「サプライズパーツ」を用意。サプライズパーツは競技の1時間前に初めて実物が配布されるため、いかに現場で早く、段取りを変更できるかがカギになります。実際のサプライズパーツはサイズや素材、プーリーの直径などが異なるレベル0〜4の5種類のベルトが用意されました。それぞれ難易度に応じて得られる得点が異なります。各チームは難易度の高いサプライズパーツを選択して高得点を狙うか、難易度の低いパーツで確実に点数を取りに行くか、競技としての戦略も必要になります。配点は1日目が100点、2日目が200点の合計300点。

大会の結果は? 注目チーム紹介

製品組立チャレンジで優勝したのは、デンマークの「SDU Robotics」チーム。組立タスクでは完成には至らなかったものの、1日目のタスクボードタスクで92点という圧倒的な得点を記録しており、そのリードを最後まで守り切りました。ハンドの指先を3Dプリンタで製作しており、サプライズパーツ用の指先も現場ですぐ出力したとのこと。

優勝チームである「SDU Robotics」が組み立てを完成させられなかったことからもわかるように、注目の組立タスクでは、難易度が極めて高い競技課題を前に、多くのチームが苦戦。3日目を終えた時点で、どのチームもベルトドライブユニットを完成させることができませんでした。

しかし翌日、今大会で唯一、ベルトドライブユニットを完成させたチームが現れました。日本のシステムインテグレーターが構成する「FA.COM Robotics」チームです。

同チームのロボットは、ベルトの取り付けなどに苦労していたものの、競技時間60分のうち、残り7分で標準品の組み立てに成功。4日目の最高得点である51点を獲得しました。このチームもハンドがユニークで、2本指の間にドライバーを搭載し、ネジを入れてすぐに回せるようになっていました。完成度の高さは、さすがにシステムインテグレーターが本業のチームと言えます。

「FA.COM Robotics」チームのベルトドライブユニット完成までの様子

「FA.COM Robotics」チームがベルトドライブユニットを完成させた瞬間、周囲で観戦していた観客からは大きな歓声が。1日目と2日目の成績が影響し、結果は3位に終わったものの、今大会でもっとも会場を沸かせたチームとなりました。

海外勢や企業の連合チームが上位を占めるなか、学生チームも健闘していました。日本の「hippopoTaMUs」は、首都大学東京の学生4名が中心のチーム。工夫したというのは、ロボットアームの先端に取り付けるハンド。3本指なので、多少位置がずれても中心で持つことができ、把持したまま無限に回転できるようになっていました。もう1つのアームには、2本指のハンドが搭載されていて、組立タスクではこちらも併用します。

同チームは、2回実施された初日のタスクボードタスクで、1回目が42点、2回目が28点と、いずれも好成績をゲット。部品の認識は、ハンドの横に搭載したカメラで行っており、教示(ロボットのプログラムを作成する作業)なしでうまくやることができたそうです。

タスクボードタスクに集中的に取り組む作戦で臨んだという同チーム。見事作戦が的中し、初日のタスクボードタスクを終了時点では5位という結果に。予算や時間に限りがある学生チームにも関わらず、見事な成績を収めました。

また、ちょっと変わっていて面白かったのが、イギリスの「Cambridge Robotics」チーム。このチームは、ネジをピックアップするのに粘着性のあるグリスを活用。実際の製造現場ではネジ穴にグリスが残るなどの問題がありますが、今回の競技ではルール上OK。完成度の高い製品を作ることを求められる製造現場に慣れている企業チームでは思いつかない、大学チームらしいユニークなアイデアでした。サプライズパーツでは、唯一、最高難易度のチェーンを選択。完成はしなかったものの、会場を盛り上げました。

ブースでは等身大ヒューマノイドがダンス

WRSでは、競技会のほか、展示会「World Robot Expo」も併催。川崎重工もブースを設け、等身大のヒューマノイドロボットを展示していました。

転んでも壊れないタフなヒューマノイドロボットの実現を目指して開発が進められており、ブースでは昨年発表した「バージョン4」によるダンスデモが披露され、来場者の注目を集めていました。デモのほか、最新の「バージョン5」も展示。このバージョン5では、軸構成を見直すなどして、さらなる軽量化・スリム化を達成しています。

右が最新の「バージョン5」

そのほか、双腕スカラロボットの最新モデル「duAro2」も出展されていました。duAroは、人間と一緒に働くことができる協働ロボット。コンパクトで現場に導入しやすい特徴はそのままに、上下ストロークを150mmから550mmへと大幅に拡大、同時に可搬質量も2kgから3kgへとパワーアップしており、より多くの作業に適用できるようになりました。

2020年の本大会ではさらに進化したロボットの活躍に期待

今回のベルトドライブユニットの組み立ては、1か月ほどかけてロボットの動作を作り込むなどすれば、クリアできたチームはもっと多かったでしょう。しかし、ロボットをより多くの現場で活用するためには、すぐに簡単に使えることが重要です。そのため今回の競技では、様々に変化する生産要求への対応といった、ものづくりの現場におけるスタンダードを見据えて、直前に部品を渡すなど、あえてハードルをあげた競技の設定となっていました。

このような実際のロボット導入でも直面する高難易度の課題対する各チームの対応が製品組立チャレンジの見どころ。それを踏まえて2年後の本大会を見てもらえれば、より楽しめるかもしれません。

WRS本大会は、2020年10月上旬に、愛知県国際展示場にて開催される予定です(一部のインフラ・災害対応部門の競技は8月中旬に福島ロボットテストフィールドにて実施)。プレ大会では苦戦したロボットが多かったですが、ロボットのさらなる社会実装に向けてこれから2年でどれだけ進化した姿を見せてくれるのか、楽しみに待ちたいところです。