2024年11月CO-CREATION PARK – KAWARUBA(以下、KAWARUBA)が開所し、ヒューマノイドの開発拠点も明石工場(兵庫県)からKAWARUBA(東京都)に移転しました。川崎重工のヒューマノイド開発を立ち上げ時から共に研究している東京大学情報システム工学研究室の稲葉雅幸教授に、ヒューマノイドそしてKAWARUBAへの期待を伺いました。


稲葉教授の簡単な経歴を教えてください。
私は東京大学 情報システム工学研究室( JSK -Home- )でヒューマノイドを始めとした様々な知能ロボットの研究と指導を行ってきました。
実は、川崎重工の社長である橋本さんとは大学時代の同期でした。2013年の同窓会で再会したことをきっかけに、RHP(Robust Humanoid Platform)プロジェクトとして5年間のヒューマノイドロボットの共同研究を実施しました。このプロジェクトでは、産業界の川崎重工のロボット技術とアカデミアのロボット知能技術を融合し、壊れないヒューマノイドの開発を行いました。これらの技術は現在のKaleidoの礎となっています。
昨年度、大学を定年退官したことを機に川崎重工の顧問として引き続きKaleido及びソーシャルロボットの開発に従事しています。


ヒューマノイドはどんな用途で使われていくのでしょうか?
ヒューマノイドはフットプリントが小さいことが特徴です。重機などは安定性を確保するためにフットプリントが大きい。しかし、これだと作業できるスペースが限られてしまいます。それに、想定外の外圧がかかった時に転倒しやすく、リカバリーすることもできません。
一方で、ヒューマノイドは転倒しないための機能開発がどんどんと進められています。これは、想定外の力が加わっても倒れにくいということです。狭い場所で安定して作業ができるヒューマノイドが多くの場所で活躍するでしょう。


ヒューマノイドが普及していくためには何が必要だとお考えですか?
ヒューマノイドが今後普及していくためには、用途が練られていく必要があります。かつて、計算機は研究所だけに存在していました。その後、パーソナルコンピューターの規格が公開され世の中に広がっていき、一気に用途が広がっていきました。その結果、今は一人に一台パソコンを使っています。最初数台だったものが千台、一万台に広がっていくタイミングで用途は大きく広がっていきます。ヒューマノイドは今、世の中に限られた数しかありません。これではどのように使えるかの試行錯誤が進んでいきません。数台しかないヒューマノイドが百台、千台に広がっていき、当たり前に身近にあるようになれば、作業させてみた様子がYouTubeやTikTokなどでどんどん公開されはじめる。そうすると自ずと普及が加速していくでしょう。


昨今AIの活用が加速しています。AIの登場で期待されていることはありますか?
もちろんです。これまでは専門の知識を持った者がヒューマノイドの動きをプログラミングしていました。AIがあれば、予め動作を教示していなくても、インターネット上の知識をもとに動作させることもいずれ可能になります。例えば、「掃除をして」と伝えれば、YouTube上の関連する動画から自分で掃除を学習して部屋の中の掃除ができるようになるかもしれません。


それは、理想的ですね!そんな世の中が来ることが楽しみです。
米国や中国のヒューマノイドが近年次々と登場しています。ロボット大国でもあり、長年ヒューマノイドの開発をしてきた日本の存在感がなくなるのではないかと心配です。日本発のヒューマノイドは何を強みとしていけば良いでしょうか?
多くの人に使ってもらい、より良いものを作り上げていくためにはプレーヤーが多いことが望ましいです。そのため、米国や中国で開発が進みヒューマノイドが世界中で盛り上がることは喜ばしいことだと考えています。
「困っているところ」にロボットは使われていく。海外だと工場での人手不足などが想定されています。日本は介護・医療でのニーズが高いでしょう。また、日本は災害大国でいずれ災害がおこることは想定しておくべきことです。インフラが壊れた時、復帰するための労働力も必要です。


ヒューマノイドを一国・一社の視点だけでなく、今はみんなでヒューマノイドを盛り上げていくフェーズだということですね。わくわくしてきました。
川崎重工がヒューマノイドKaleidoの開発に着手しておよそ10年経過しました。Kaleidoが社会実装されるためには、今後どのような開発が必要だとお考えですか?
川崎重工は総合重工を母体としながら産業用ロボットの老舗でもあります。ハードを開発している会社だからこそできる開発がたくさんあると考えています。充電が切れそうになったら自分で充電する、ものを戻すなどの簡単な作業を標準的にできるように作っておく。また、今はヒューマノイドを使用しないときはクレーンで吊って充電しているが、クレーンは場所を取るため、働いていない時にヒューマノイドが邪魔になってしまう。働いていない時にも邪魔ではなく、椅子として使えるなどなんなら役に立つ、そんな導入の敷居を下げる工夫をしていくことが社会実装への一歩に繋がります。
また、川崎重工には油圧機器を扱う部門もあり、2024年9月には、油圧技術とロボットの制御技術を融合した双腕ロボットのデモ機がIFPEX2024に出展されました。油圧を使うことで、災害時に必要とされるような大きな力を発揮することができます。既に川崎重工内にエレメントは揃っているので、これらを組み合わせて、「あったら良いね」では終わらせず、実現させていくことが大切です。



昨年新施設CO-CREATION PARK KAWARUBAが開所し、ヒューマノイド開発拠点もKAWARUBA内に移転しました。稲葉教授はKAWARUBAを使ってどのようなことができるとお考えでしょうか?
川崎重工社長の橋本さんの「川崎重工は創立の地神戸を中心として発展してきた。関東にも拠点を置いて、社内外問わず様々な部門・機関と連携が取れる体制を作っていきたい」という想いを元にこの施設が作られたと聞いています。この施設では、1Fにヒューマノイド開発、2Fではソーシャルロボット達が常に動き回っており近い距離で開発できるようになりました。川崎重工が開発しているヒューマノイドKaleido、アーム付き自走式ロボットNyokkey、屋内搬送用ロボットFORROでは共通化できる部分も多いので、双方の開発者のコミュニケーションが取れるのはとても良いことだと考えています。
KAWARUBAを使って様々な人と出会い交流することで、ヒューマノイド活用の意見も広がっていくでしょう。今後勉強会など実施していくと良いと思います。
また、KAWARUBAができてから、多くの企業や行政の方々と議論し共創活動が進み始めています。実際の課題現場を訪問して調査分析を行うと、脚型ロボットやヒューマノイドでないと入り込めない環境での支援が求められていることも多く、ロボット自体の開発から社会実装へ向けての開発へ共創活動により進めてゆくフェーズに入ってきていると感じています。



とてもわくわくするお話ありがとうございました!
皆さん、川崎重工のヒューマノイドKaleidoと共に暮らす社会を楽しみにしていてくださいね。これからも応援よろしくお願いします。