
川崎重工は、1878年に川崎築地造船所として創業して以来、船づくりを原点に発展してきました。船舶、航空機、鉄道車両、モーターサイクル、産業機械など、幅広い分野でものづくりを続けてきた川崎重工にとって、造船はその歴史を語るうえで欠かせない事業の一つです。
香川県坂出市にある坂出工場は、LPG・LNG運搬船やタンカーなど、大型船舶の建造に対応する川崎重工の主要な造船拠点です。広大な建屋、巨大なクレーン、そしてスケールの大きな船殻ブロックが並ぶ現場では、日々、大型船ならではの高度なものづくりが行われています。

船の建造では、船体をいくつものブロックに分けて製作し、それらを組み合わせることで一隻の船を形づくっていきます。その中でも、船体の構造を支え、強度や安全性の基盤となるのが船殻(せんこく)ブロックの製造工程です。
今回は、この船殻ブロックの大組立工程において、8台のアーク溶接ロボットを活用し、桝目溶接の自動化に取り組んだ導入事例をご紹介します。
広大な船殻ブロックにおける溶接箇所の多さと形状の複雑さが、自動化の大きなハードルに
船殻ブロックは、船首から船尾方向に通るロンジ材と、船の幅方向に通るトランス材などの骨組みが交差することで、桝目状の構造を持っています。これは、航行中に船体へかかるさまざまな力を受け止め、船の強度や剛性を確保するための構造です。

この桝目一つひとつに対して、水平隅肉溶接や立向き溶接など、さまざまな溶接作業が必要となります。大型船では対象となる溶接箇所が非常に多く、作業範囲も広大です。さらに、ブロックごとに寸法や形状が異なるため、同じ条件で繰り返せる作業ばかりではありません。
こうした船殻ブロックの溶接工程は、これまで熟練した作業者の技術に支えられてきました。入り組んだ構造の中で、姿勢や作業条件が変化する溶接を一つひとつ確実に行い、高い品質を安定して保つ必要があります。
しかし、大型船ならではの広大な作業範囲、膨大な溶接箇所、ブロックごとに異なる形状や寸法に対応しながら、自動で安定した溶接を行うことは簡単ではありません。こうした条件が、船殻ブロックの桝目溶接を自動化するうえでの大きなハードルとなっていました。

8台のロボットが挑む、巨大船の桝目溶接自動化

前述した課題に対し、川崎重工では、自社のロボット技術を活用し、船殻ブロックの大組立工程における桝目に対して8台のアーク溶接ロボット自動溶接するシステムの導入に取り組みました。
造船ブロックの溶接では、対象物そのものが大きく、溶接箇所も広範囲にわたります。そのため、ロボットを固定位置に設置するだけでは、桝目ごとの溶接に対応することはできません。
本システムでは、8台のロボットをNC制御の走行ガーダに吊り下げ、上位データに基づいて溶接が必要な桝目位置へ自動で移動させます。ロボットはブロックの上部から所定の桝目へ下降し、位置決めを行ったうえで溶接を開始します。
つまり、ロボットが“決められた場所で待つ”のではなく、巨大な船殻ブロックの中で、必要な場所へ移動しながら溶接を進めていく仕組みです。
この自動化を支えているのは、ロボット単体の性能だけではありません。走行ガーダ、吊架台、位置決め機構、制御盤、オフラインティーチング機能などを組み合わせ、造船ブロックの大規模な溶接工程に対応できるシステムとして構築している点が大きな特長です。
導入したシステムの主な構成
- 8台の川崎重工製アーク溶接ロボット
- ロボットを移動させるNC制御の走行ガーダ
- ロボットを桝目内へ下降させる吊架台
- 正確な位置決めを行う機構
- 作業データや運転を管理する制御盤
- 上位データを活用するオフラインティーチング機能
上位CADデータを活用し、教示作業なしで自動溶接へ

造船ブロックは、一つひとつ形状や寸法が異なります。そのため、自動化を進めるうえでは、ロボットの動作プログラムをいかに効率よく作成するかが重要になります。
本システムでは、上位CADデータを活用したオフラインティーチングシステムを搭載しています。作業に必要なデータを設定することで、ライン上でロボットを直接教示することなく、さまざまな寸法の桝目ブロックに対応した自動溶接が可能です。
現場ハウスでは、オペレータがワーク情報を確認し、各ロボットへの作業割付や溶接条件の選択を行います。現場の状況に応じて、作業情報の追加や削除といったデータ編集も可能です。
これにより、ブロックごとに条件が異なる造船現場においても、柔軟に運用できる仕組みとなっています。ワーク情報を選択した後は、主制御盤から自動運転を開始できます。運転状況はモニタなどで確認でき、必要に応じてロボットごとに走行や昇降を個別に操作することも可能です。

大型ブロックの奥へ入り込む、走行・昇降機構

ロボットは、走行ガーダによって桝目位置まで移動した後、吊架台とともにブロック内へ下降します。吊架台の昇降ストロークは約7mあり、大型の船殻ブロックにも対応できる構造です。
また、溶接方向に応じてロボット吊架台を180度反転できるため、桝目内のさまざまな溶接方向に対応することができます。

ロボット吊架台が所定の位置へ下降すると、左右位置決めシリンダーによってセンタリングを行い、前後張り出しシリンダーで壁面との距離を調整します。その後、吊架台がゆっくりと下降し、桝目内の所定位置に正確に着座します。大型で複雑な船殻ブロックの中でも、ロボットを正確な溶接位置へセットできることが、安定した自動溶接を支えています。

実際の部材位置を確認し、安定した溶接品質を実現
船殻ブロックの溶接では、設計データ上の位置と実際の部材位置にわずかな差が生じる場合があります。そのため、本システムでは溶接前にワイヤタッチセンシングを行い、実際の溶接始端位置と終端位置を確認したうえで位置補正を行います。
センシング動作は、溶接部の形状に応じて適切なパターンが選択されます。これにより、現場条件のばらつきに対応しながら、部材の実位置に合わせた溶接が可能になります。
水平隅肉溶接では、開先の有無や脚長寸法などに応じて適切な溶接条件を選択します。また、トランス材とロンジ材の立向き溶接では、溶接条件やウィービング条件を切り替えることで、高能率で安定した自動溶接を実現しています。
さらに、溶接後にはノズルクリーニング、ワイヤカット、ワイヤ突出し長さの確認を行います。次の溶接に備えてこれらの動作を行うことで、センシングや溶接品質の安定化につなげています。
移動、位置決め、溶接を繰り返し、広大なブロックを効率よく施工
桝目内の溶接が完了すると、ロボットは作業原点姿勢に戻り、吊架台が上昇します。各ロボットの作業が完了すると、走行ガーダが次の桝目群へ移動し、再び下降、位置決め、溶接を繰り返します。
この一連の動作により、広大な船殻ブロック全体に対して、複数のロボットが連携しながら溶接を進めていきます。

本システムでは、溶接作業そのものだけでなく、移動、位置決め、センシング、ノズルクリーニングといった周辺動作まで含めて自動化しています。これにより、造船現場における生産性向上と品質安定化に貢献しています。
自動溶接の流れ
- 上位CADデータをもとに溶接プログラムを作成
- オペレータがワーク情報や溶接条件を確認
- 走行ガーダがロボットを所定の桝目位置へ移動
- 吊架台が下降し、ロボットを桝目内へセット
- 位置決め機構により、溶接位置を調整
- ワイヤタッチセンシングで実際の部材位置を確認
- 溶接条件に応じて自動溶接を実行
- 溶接後、ノズルクリーニングなどを行い次の桝目へ移動
製造現場を知るロボットメーカー、それこそが川崎重工の強み

本システムは、2000年代後半に坂出工場へ導入され、現在も造船現場で稼働を続けています。導入から約20年間にもわたり稼働し続けていることは、ロボット品質やシステムとしての信頼性に加え、現場に根差したロボット活用の一例といえます。
川崎重工は、ロボットメーカーであると同時に、自らロボットを活用するユーザーでもあります。船舶をはじめ、航空機、モーターサイクル、各種産業機械など、多様なものづくりの現場でロボットを使い、改善し、磨き上げてきました。
現場で使うからこそ見える課題があります。
現場で使い続けるからこそ、技術は進化します。

造船という大型構造物の製造現場には、造船ならではの難しさがあります。対象物は大きく、形状は複雑で、作業条件も一様ではありません。そのような環境でロボットによる自動化を実現するためには、ロボット単体の性能だけでなく、周辺設備、制御、センシング、運用方法まで含めた総合的な技術が必要です。
大組立桝目溶接システムは、こうした造船現場の課題に対し、川崎重工が自社のものづくりで培ってきた知見とロボット技術を組み合わせた導入事例です。

船をつくる現場で磨かれてきたロボット技術。
それは、川崎重工が自らの現場で挑戦し続けてきたからこそ生まれた強みです。


【導入先概要】川崎重工業株式会社 エネルギーソリューション&マリンカンパニー 船舶海洋ディビジョン 坂出工場
- 本事例の対象工程:船殻ブロックの大組立工程における桝目溶接の自動化
- 事業内容:船舶・海洋関連製品の設計、製造、建造
- 主な建造対象:LPG・LNG運搬船、タンカーなどの大型船舶
- 所在地:香川県坂出市
- 特長:大型船舶の建造に対応する、川崎重工を代表する造船拠点
