導入事例:伝統の鰹節づくりを次世代へつなぐ、籠立て・煮熟工程の自動化(株式会社カネニニシ)

鹿児島県指宿市山川に拠点を構える株式会社カネニニシは、昭和初期から続く鰹節製造を手がける企業です。

鹿児島県指宿市山川に拠点を構える株式会社カネニニシ

鰹節づくりは、魚の形状や状態を見極めながら、多くの工程を経て時間をかけて仕上げていく伝統的なものづくりです。一本一本の魚を丁寧に扱い、煮熟、乾燥、発酵などの工程を積み重ねることで、長い年月をかけて受け継がれてきた品質を守っています。

その一方で、製造現場では多くの作業が人手に支えられてきました。形状が一定ではない魚を扱うため、作業には熟練者の目と手が欠かせません。さらに、籠立てや煮熟といった工程では、重量物の取り扱いや高温環境での作業が伴い、作業者に大きな身体的負担がかかっていました。

人手不足や作業者の高齢化が進むなか、カネニニシでは、伝統的な鰹節づくりを守りながら、現場で働く人の負担をいかに軽減するかが大きな課題となっていました。

今回は、鰹節製造における籠立て工程および煮熟工程を川崎重工のロボットで自動化し、危険作業の低減、生産性向上、品質管理の高度化に取り組んだ導入事例をご紹介します。

昭和初期から続く鰹節づくり。その現場には、多くの人手と熟練の技が必要だった

鰹節づくりは、魚の形状や状態を見極めながら、煮熟、骨抜き、乾燥、発酵など、いくつもの工程を経て仕上げていく伝統的なものづくりです。原料となる魚は一つひとつ形が異なり、均一な工業製品のように扱うことはできません。そのため、現場では長年、職人の経験と手作業に支えられた製造が行われてきました。

株式会社カネニニシ 代表取締役 西 雄生氏は、当時の課題について次のように語ります。

「結構、手作業なんですよね。形がバラバラなものですから、手作業で作るという昔ながらの製法で、いろいろな工程を経て時間をかけて生産されるものなんです」

株式会社カネニニシ 代表取締役 西 雄生氏

鰹節づくりには、1本1本の魚を丁寧に扱い、長い時間をかけて乾燥、発酵させる工程があります。こうした伝統的な製法を守る一方で、現場では深刻な人手不足と作業者の高齢化が課題となっていました。

特に、魚を籠に並べる「籠立て」や、高温の湯で魚を加熱する「煮熟」は、作業者に大きな負担がかかる工程です。重量物を扱うことによる腰への負担、高温環境での火傷やけがのリスクなど、現場には改善すべき課題がありました。

高温の湯で魚を加熱する「煮熟工程」
魚を籠に並べる「籠立て工程」

「作業する人たちが腰が痛いとか、魚の血が飛んだりとか、すごく苦労している姿をずっと見ていたので、自動化できないのかと思っていました」

伝統の品質を守りながら、作業者を重労働や危険作業から解放する。
その思いが、カネニニシにおけるロボット導入の出発点となりました。

川崎重工のロボットに感じた“未来”。籠立て・煮熟工程の自動化へ

カネニニシが自動化の対象としたのは、鰹節製造の中でも特に負担の大きい籠立て工程と煮熟工程です。

籠立てでは、魚を所定の向きや位置で並べる必要があります。魚の形状や大きさは一定ではないため、単純な繰り返し作業ではなく、現場の判断を伴う作業です。また、煮熟工程では、沸騰する湯や蒸気の近くで作業を行うため、高温環境に伴う危険もあります。

煮熟工程の高温環境

「煮熟工程は、沸騰するような高温の中で火傷したり、けがをする可能性がある作業なので、そういう部分を自動化できないかと思いました」

こうした課題に対し、カネニニシが着目したのがロボットでした。
ロボットであれば、人にとって負担の大きい作業や危険な作業を代替できるだけでなく、さまざまな動作に柔軟に対応できる可能性があります。

「ロボットだったら、これを選んでいろいろな動作ができるというところに魅力を感じた、未来を感じたというところです」

今回のシステムでは、ロボットを2台使用し、籠立て、煮熟、その間の横搬送、品質管理までを含めて自動化しました。従来、人が担っていた工程を、ロボットと周辺設備、制御システムを組み合わせることで、完全に無人で稼働できる構成としています。

“職人の考え”と“ロボット屋の考え”をすり合わせる

今回の自動化では、ロボットシステムインテグレータである髙丸工業とカネニニシが連携し、鰹節製造に適したシステムづくりを進めました。

ロボットや設備の使い方、システムの構築方法については、システムインテグレータが知見を持っています。一方で、鰹節づくりにおける魚の扱い方、工程ごとの判断、品質へのこだわりは、現場の職人が長年培ってきたものです。

ロボットSIerとして本システムの構築を担当した髙丸工業株式会社 専務取締役の髙丸泰幸氏は、開発当時を次のように振り返ります。

「ロボットシステム、あるいはロボットに対しては、我々は設備の使い方とかシステムの構築の仕方は分かっています。ただ、鰹節の生産においては、いろいろと教えてもらう中で、装置を生産するロボットとしてはどのような形が適切か、我々自身も勉強させてもらいながら進めました」

髙丸工業株式会社 専務取締役の髙丸泰幸氏

鰹節製造は、一般的な工業製品の搬送や組立とは異なります。魚は形も大きさもばらつきがあり、水分や熱、蒸気を伴う環境で扱う必要があります。さらに、伝統的な製法や現場の段取りを尊重しながら、自動化に適した動作へ置き換えていく必要がありました

現場を初めて見た髙丸氏にとって、鰹節づくりは驚きの多いものでした。

「工場に行ってみると、これだけ人の苦労だとか、伝統だとか、文化の上に成り立っているものとは知りませんでした。社長の熱い思いをうかがいながら、頑張ろうと改めて覚悟を決めたことを覚えています」

単に人の作業をロボットに置き換えるのではなく、伝統的な製造現場を理解し、ロボットに適した工程設計へと落とし込む。そこに、今回の自動化の難しさと価値がありました。

伝統的な鰹節製造という現場

2台のロボットで、籠立て・煮熟・搬送・品質管理までを自動化

今回導入したシステムでは、川崎重工の大型汎用ロボットとパレタイジングロボットの2台が工程内で役割を分担し、籠立てや煮熟に関わる作業を自動で行います。

「籠を立てる工程や、煮熟と呼ばれる工程をロボットで自動化しています。その間の横搬送ですとか、品質管理も含めて自動で管理し、完全に無人の構造になっています」

川崎重工のパレタイジングロボットによる煮熟工程自動化
川崎重工の大型汎用ロボットによる籠立て工程自動化

人手による作業では、作業者が魚を持ち上げ、腰の高さで扱いながら作業を進めていました。一方で、ロボットは重量を感じることなく、同じ動作を安定して繰り返すことができます。

そのため、従来の人手作業をそのまま再現するのではなく、ロボットに適した方式へ工程そのものを見直しました。たくさんの魚で重くなった状態の籠でも、ロボットで安定して積み上げられるような搬送・配置方式を採用しています。

また、食品工場として衛生面への配慮も重要です。搬送高さや設備構造を工夫し、HACCP*を意識した衛生的な搬送を実現しています。

「人手の作業というのは全部腰の高さとしているので、HACCPの食品衛生的な観点からも、横搬送するというのは、地面からそれなりの高さで搬送することで、衛生にも配慮した仕組みにしています」

*HACCP(ハサップ)とは、 Hazard Analysis and Critical Control Point の略で、日本語では一般的に「危害要因分析・重要管理点」 と訳されます。食品の製造工程の中で、食中毒菌、異物混入、化学物質などの危害要因を分析し、特に重要な工程を継続的に管理する衛生管理手法です。

導入システムの主な構成
  • 籠立て工程を自動化するロボット
  • 煮熟工程に対応するロボット
  • 工程間をつなぐ横搬送システム
  • 魚の情報を管理するICチップ
  • 魚種・サイズ・処理時間に応じた制御システム
  • 近接センサーを中心とした検知機構
  • 食品衛生に配慮した搬送構造

ICチップで魚ごとの情報を管理。職人の判断をデータ化する

鰹節製造の自動化で大きなポイントとなったのが、魚ごとの情報管理です。

従来、煮熟時間や処理条件は、職人が魚の種類や状態を見ながら判断していました。しかし、ロボットで自動化するためには、魚の種類、サイズ、産地、処理時間などの情報をシステム側で管理し、各工程へ正しく引き継ぐ必要があります。

そこで本システムでは、ICチップを活用し、魚の種類やサイズ、処理条件などの情報を工程内で管理する仕組みを構築しました。

髙丸氏は、魚ごとの情報管理について次のように語ります。

「魚に関しては、ICチップで情報を管理しています。これまでは職人さんが魚の状態を見ながら判断し、時間を計っていた部分を、魚の種類ごとに適切な処理時間を設定し、完了後はロボットが自動で判断して次工程へ送り出す仕組みにしています」

どのステーションで、どのサイズの魚を、どの条件で処理するのか。こうした情報をICチップに紐づけ、工程全体で活用することで、従来は職人の経験や判断に頼っていた部分を、システム上で管理できるようにしました。

これにより、高温環境での危険作業を低減するだけでなく、魚ごとの処理条件のばらつきを抑え、品質管理の安定化にもつなげています。

「危険作業を撤廃するだけではなく、品質管理の面でも効果があると考えています」 鰹節づくりの現場で培われてきた知見を、ロボットや周辺設備が扱える情報として整理し、工程全体で活用する。 この考え方が、伝統的な製法と自動化を両立するうえで重要な役割を果たしています。

高温・蒸気・水分。食品製造現場ならではの難しさ

鰹節製造の現場は、ロボットやセンサーにとって厳しい環境です。特に煮熟工程では、高温の湯や蒸気が発生し、水分や塩分の影響も受けるため、一般的な製造現場とは異なる設計上の工夫が求められました。

ロボットやセンサーにとって厳しい環境

ロボットシステムの構築にあたり、髙丸氏は次のように語ります。

「接点があるようなセンサーは、錆びたり、汚れなどの影響を受けたりすると使えなくなる可能性があります。そのため、原則として近接センサーを中心に、いかに制御するかという点が今回の課題でした」

画像処理装置や接触式のセンサーは、蒸気や水分、汚れの影響を受けやすく、安定した運用が難しい場面があります。そのため、本システムでは近接センサーを中心に構成し、どの位置で魚や籠を検知するのか、どの情報をICチップで管理するのか、どの判断をロボットや周辺設備側に持たせるのかを、現場環境に合わせて一つひとつ検討しました。

さらに、鰹節製造では、完全自動化を目指しながらも、伝統的な工程や現場の運用に対応できる柔軟性も必要でした。途中で人手が加わる場合でも、ロボットが工程情報を正しく把握し、適切に作業を継続できる仕組みが求められます。

「伝統的なやり方にも対応できる体制にすることが非常に難しかったです。ランダムに人手が加わったとしても、ロボットが適切に作業できるように、ICチップを使って情報を管理しています」

食品製造現場ならではの厳しい環境と、伝統的な製法に由来する運用の柔軟性。その両方に対応するため、ロボット、搬送設備、センサー、ICチップによる情報管理を組み合わせ、現場に適した自動化システムとして構築しました。

工場全体で4.1%以上の生産性向上を達成

籠立て工程と煮熟工程の自動化により、カネニニシでは、作業者を危険で負担の大きい作業から解放することができました。高温環境での作業や重量物の取り扱いをロボットが担うことで、作業者の身体的負担を軽減し、人はより付加価値の高い作業に集中できるようになりました。

導入効果について、カネニニシの西氏は次のように語ります。

「自動化することで、人手がより付加価値の高い作業ができるようになり、危険な作業からも解放されるように進めていただいています」

また、ICチップによる情報管理により、魚の種類やサイズに応じた処理条件を安定して管理できるようになりました。従来は職人の経験や判断に頼っていた部分をシステム化することで、品質管理の安定化にもつながっています。

その結果、工場全体として4.1%以上の生産性向上を達成しました。

ロボット導入後の現場について、西氏は、これまで見てきた鰹節製造の風景とは大きく変わったと振り返ります。

「率直に言えば、かっこいいなということです。これまで見てきた風景とは全く違う風景ですから。実際に現場へ落とし込んでうまくいくのかという不安もありましたが、今は安心しています」

カネニニシにとって今回の自動化は、単なる省人化ではありません。作業者の負担を減らし、安全性を高めながら、伝統的な鰹節づくりを安定して続けていくための取り組みです。

ロボット化による主な効果
  • 籠立て・煮熟工程の完全自動化
  • 高温作業や重量物作業の負担軽減
  • 火傷やけがにつながる危険作業の低減
  • 人手不足への対応
  • ICチップによる魚の情報管理
  • 魚種やサイズに応じた処理条件の標準化
  • 品質管理の安定化
  • 工場全体で4.1%以上の生産性向上

導入して終わりではない。さらに使いやすく、さらに広い工程へ

今回の自動化により大きな成果が得られた一方で、現場で実際に設備を使い続ける中で、さらなる改善点も見えてきています。設備の使い勝手やセンサー構成、制御精度などについては、今後も継続的に改善を重ねていく考えです。

システム面での今後の改善について、髙丸氏は次のように語ります。

「もう少し簡単に台車を入れられるようにするなど、使い勝手の面で改善していきたいポイントがあります。設備としても、もう一つこういうセンサーがあれば、より確実に制御精度を上げられるのではないかと考えています」

システム面での今後の改善について語る髙丸氏

一方、カネニニシでは、今回自動化した籠立てや煮熟工程にとどまらず、今後は骨抜きなど他の工程への展開も視野に入れています。最終的には、各工程をラインでつなぎ、鰹節製造全体の自動化をさらに進めていく構想です。

今後の展望について、西氏は次のように語ります。

「魚を並べてみようかとか、骨の処理をさせてみようかとか、どんどんチャレンジして、最終的にはラインでつながっていけるようにしていきたいという思いがあります」

今回の取り組みは、単なる設備導入ではなく、鰹節製造の未来に向けた第一歩です。現場の使いやすさを高めながら、ロボット化の対象工程を広げていくことで、伝統的な鰹節づくりを次の世代へつなぐ生産体制づくりが進められています

鰹節産業を、若い世代にとって魅力ある仕事へ

カネニニシが目指しているのは、省人化だけではありません。

作業者が危険や重労働から解放され、より付加価値の高い仕事に取り組めるようにすること。若い世代が「働いてみたい」と思える食品製造の現場へ変えていくこと。そして、日本の伝統産業である鰹節づくりを、全国へ、世界へ届け続けることです。

「一人ひとりがプライドを持って鰹節の生産に取り組んでいるということに非常に感銘を受けています」

ロボット化によって、鰹節製造の現場は従来の重労働のイメージから、新しい技術を取り入れた魅力ある産業へと変わりつつあります。

「若い人たちに、食品をこういう人たちと一緒に自ら作っていきたい、鰹節産業というのはすごく魅力がある産業だと思ってもらえるようにしたいです」

伝統を守るために、ロボットを使う。
人の技を次の世代へつなぐために、工程を変える。

カネニニシの取り組みは、食品製造業におけるロボット活用の新たな可能性を示しています。

ロボット化は、伝統を置き換えるものではありません。
伝統を未来へつなぐための挑戦です。

【会社概要】株式会社カネニニシ
  • 事業内容    :鰹節の製造
  • 所在地     :鹿児島県指宿市山川
  • 本事例の対象工程:鰹節製造における籠立て工程、煮熟工程、工程間搬送、品質管理の自動化
  • 導入効果    :重筋作業の負担軽減、危険作業の低減、人手不足への対応、品質管理の安定化、工場全体で25%以上の生産性向上
  • 特長      :昭和初期から続く伝統的な鰹節製造を受け継ぎながら、ロボット化により次世代の食品製造現場づくりに取り組む

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