新たに登場した「duAro2」
2018年6月、人共存型双腕スカラロボット「duAro(デュアロ)」シリーズの新モデルとして、「duAro2」が発売されました。duAroとは、2015年6月に川崎重工が発表した協働ロボット。人間と同じ2本の腕を持ち、人間と同じ空間で作業ができます。水平方向の動きに特化しているシリーズ第一号のduAro1に対し、duAro2は、アームの上下ストロークが15cmから55cmに、可搬質量(片方のアームで持ち上げることのできる重さ)が2kgから3kgになるなど、duAroシリーズがよりパワーアップしました。
duAro1の開発当初から関わり、”duAroシリーズの父”とも言える川崎重工の長谷川省吾氏(精密機械・ロボットカンパニー ロボットビジネスセンター FAソリューション第二総括部 総括部長 理事)に、duAro2開発の狙いと背景について、詳しく話を聞きました。
duAro1だけでは自動化できない溝をduAro2が埋める
とことん安全と使いやすさを追求したduAro1は、発売以来、電子基板のネジ締めやおにぎりの番重詰めなどロボットが必要とされていた現場で活躍しています。duAro1の誕生については、こちらの記事で特集しています。ぜひご覧ください。
<duAro1 開発ストーリー>
双腕スカラロボット「duAro」 人共存型ロボット開発の裏側
duAro1の発売後、長谷川氏は生産現場において、まだ高い自動化のニーズがある工程があることに気が付きました。それが、水平動作に特化するduAro1では対応が難しい「箱詰め作業」です。
「小型電子機器製品などを製造する工場の生産ラインでは、ほとんどの場合、最後に出荷に向けた箱詰めが行われます。この作業は依然として人手作業が一般的です。duAro1の上下方向の可動範囲は15cm。段ボールの深さは40〜50cmもあるため、ダンボールの底まで届きません。
かといって、可動範囲を長くするため、現在の構造のまま上下方向のアームを延長すると、50cm以上の長さが必要になり、作業の邪魔になってしまいます。ここにduAro1では自動化できない溝がありました」(長谷川)
そこで、duAro2では上下方向に動く部分を、人間の腕のように折り畳まれるリンク構造に変更。これにより可動範囲はコンパクトに抑え、上下方向のストロークを長くすることが可能となりました。
「上下方向の可動範囲が55cmまで長くなったことで、箱詰め作業のほか、段差がある工程間のワークのハンドリングなど、duAro1では難しかった作業も可能になりました」(長谷川)
duAro1も同時にアップデート。進化するduAroシリーズ
進化したのはduAro2だけではありません。duAro1もまた、お客さまの声に応えてパワーアップを続けています。duAroシリーズの進化をまとめると、次の通りです。
ポイント1 : duAro2は上下の可動範囲が55cm
duAro2では上下の可動範囲が55cmまで広がりました。それにより、上下方向の動きに深さを必要とするダンボールへの箱詰めのような作業も可能に。
ポイント2 : duAro2は最大可搬質量が片腕3kg、両腕6kg
duAro1では2kgの最大可搬質量が、duAro2では3kgに。両腕では4kgから6kgになりました。
ポイント3 : ビジョン機能が手軽に
従来はカメラを付けて作業の対象を認識させるビジョン機能を使う際に、画像処理用のPCが別途必要でした。それが、新型のFコントローラを採用したことで、コントローラ単独で処理が可能に。カメラとソフトウェアを追加するだけで対応できるため、費用も抑えられます。
ポイント4 : コントローラの分離が可能に
アームとコントローラの一体型構造がduAroの特徴でしたが、より自由な工場レイアウトを実現するため、アームとコントローラの分離型をオプションとして選べるようになりました。たとえば、アーム本体だけを装置の上に取り付けるなど、さまざまな現場のニーズに応えることができます。
今後も活躍の場を広げていくduAroシリーズ
2015年に発売を開始し、この度ニューモデルをリリースしたduAro。長谷川氏は現在までの手応えと今後の展望について次のように語ります。
「もともと、duAroシリーズは主に電気・電子業界を想定して開発したロボットでした。しかし、汎用性が高いduAroは人間が作業している場所なら、どこにでも導入できる可能性があります。
たとえば、当初はまったく想定していなかった食品業界からも、duAroへの反響をいただいています。食品業界の人手不足は深刻で、お弁当の工場であれば、24時間体制で1日に3回配送しなければならないため、3シフト分の人手が必要なのだそうです。
このような人手不足に悩む業界はまだまだあります。duAroを必要としている生産現場が、日本にはたくさんあるのです」(長谷川)
そして次世代の「duAro3」の開発の方向性についても言及しました。
「動きを制限して、シンプルさを追求したことがduAroシリーズの大きな特徴ですが、duAro3では、手首を追加し、より複雑な作業をターゲットにする予定です。
しかし、動きの軸数を単純に増やすだけでは、『操作が簡単』という当初からのコンセプトと矛盾してしまいます。
より複雑な動きを可能にしつつ、使いやすさを追求する。この矛盾したテーマの両立は難しいですが、これを実現して初めて世に出せると考えています」(長谷川)
生産現場の声に応えながら進化を続けるduAroシリーズ。duAro3が登場すれば、さらに多くの人手不足を解消してくれることでしょう。日本、そして世界における「協働ロボット」の普及はまだまだこれからです。川崎重工が提供するduAroシリーズの今後の活躍にご期待ください。