はじめに
カワサキのオートバイといえば、Ninjaシリーズのライムグリーンや、Z900RSの深みのあるマルーンなど、モデルごとに個性豊かなカラーリングが魅力のひとつです。その美しい塗装は、走行性能やデザインと並んで、ブランドの個性を際立たせる重要な要素といえます。
オートバイの車体を覆う外装カバーは「カウリング」と呼ばれ、走行時の空気抵抗低減やエンジン保護の役割を担うと同時に、車両の外観デザインを決定づけるパーツでもあります。しかし、複雑な曲面で構成されたカウリングを、ムラなく均一に、しかも多彩なカラーバリエーションに対応しながら塗装することは、高度な技術を必要とします。
カワサキモータース株式会社では、カウリング塗装のさらなる品質向上とコスト削減を目的に、川崎重工の防爆塗装ロボット Kシリーズ を用いた自動塗装ラインを導入しました。本記事では、プライマからクリアまでの3工程を2台ずつのロボットで構成した塗装ラインの技術的特長と導入効果をご紹介します。
3工程×2台 ― プライマ・ベース・クリアの一貫塗装ライン

本塗装ラインは、カウリングの塗装品質を決定づける3つの工程を、それぞれ2台の防爆塗装ロボットKF264(現:KJ264)で構成しています。
塗装工程の流れ
- プライマ(下塗り)― ベースカラーの密着性向上
- ベース(上塗り)― カラー塗布 + 塗装機洗浄
- クリア(仕上げ)― 保護・ツヤ出し
第1工程:プライマ(下塗り)
最初の下塗り工程では、ベースカラーの密着性を良くするために下塗り塗料をワークに吹き付けます。この工程が後工程の仕上がりを大きく左右するため、均一な塗膜の形成が不可欠です。
ロボットはコンベヤに追従して動作し、ワークの片側を上流側のロボットで、残りの片側を下流側のロボットで塗布していきます。2台のロボットが役割を分担しながら連続的に塗装を行うことで、コンベヤを止めることなく効率的かつ均一な下塗りを実現しています。
第2工程:ベース(上塗り)
第2工程は上塗り工程です。ここでは実際に上塗り塗料をワークに塗布し、カウリングに求められる鮮やかな色彩を形成します。一回の塗装が終わるごとにホッパー上にて塗装機の洗浄を行い、異なるカラーへの切替えに備えます。この洗浄プロセスにより、色混じりのない高品質な塗装を安定的に維持しています。

第3工程:クリア(仕上げ)
最終工程はクリア塗装です。塗装の保護やツヤを出す働きを持つ塗料を塗布し、仕上げを行います。クリア層は外観品質を最終的に決定づける工程であり、均一な膜厚と滑らかな塗面が求められます。川崎重工の防爆塗装ロボットKシリーズによる精密な軌跡制御が、深みのある光沢と高い耐久性を持つ仕上がりを実現しています。
Kシリーズの構造的優位性 ― スリーロール(3R)手首
KF264(現:KJ264)は、3つの回転軸で構成されたスリーロール(3R)手首を標準仕様としています。この手首構造が、カウリング塗装において極めて大きな役割を果たしています。
3R手首(中空構造)
- 塗料・エアホースをアーム内部に内蔵
- 外部ホースを排除

3R手首の中空構造により、塗装用の塗料やエアのホース類をアームから手首先端まで内蔵することができます。これは単に面倒なホース類の処理が不要になるという利便性の話にとどまりません。
従来、ロボットアーム外部にホースが露出していると、塗装機器周りのホースに付着した塗装ミストが対象ワークに付着し、ゴミ不良の原因となるリスクがありました。KF264では、ホース類を完全に内蔵することでこのリスクを根本から排除し、複雑な形状のワークに対してゴミ不良を出さない塗装工程の自動化を実現しました。
オートバイのカウリングは曲面が多く、わずかなゴミ付着も外観品質に大きく影響するため、この構造的優位性がもたらす効果は非常に大きいものです。
静電ベル塗装機 ― 塗装クオリティの決め手

さらに、塗装のクオリティを決定づける塗装ガンには静電ベルを採用しました。
静電ベルは吐出部分のベルカップを回転させることで塗料を微粒化し、内蔵されている高圧発生器により塗料を帯電させることで、高い塗着効率と高品質な塗装を確保しています。帯電した塗料粒子はアースされたワークに引き寄せられるため、塗料の飛散ロスを最小限に抑えながら、カウリングの複雑な曲面にも均一で滑らかな塗膜を形成することができます。
静電ベルの特徴
- 塗料を微粒化し均一な塗布
- 静電気で塗料をワークに吸着
カラーチェンジバルブ×FGP ― 多彩な色に対応する塗料供給システム

オートバイのカウリングは、モデルや仕様ごとに多彩なカラーバリエーションが求められます。本塗装ラインでは、塗料供給系にカラーチェンジバルブ(複数の塗料を瞬時に切り替える専用バルブ)とFGP:フローガバナーポンプ(塗料を常に一定量で正確に送り出す定量ポンプ)を採用することで、多彩な色に柔軟に対応しています。
KF264はこれらの機器をロボットアーム上に直接搭載し、塗装ガンまでの塗料経路を最短化。経路が短いほど、色替え時に管内に残る前の色の塗料が少なくなるため、洗浄溶剤や廃棄塗料を大幅に削減できます。多品種・多色の塗装が求められるオートバイ生産ラインにおいて、この塗料ロスの低減はコスト面でも環境面でも大きなメリットとなっています。
塗料供給系の特徴
- カラーチェンジバルブにより多彩な色に迅速対応
- FGPとの組み合わせで色替え時の塗料ロスを低減
- ロボットアーム搭載により塗料経路を最短化
導入効果 ― 高品質とコスト削減の両立

塗装品質の向上
ロボットによる精密な軌跡制御と静電ベル塗装機の組み合わせにより、作業者の熟練度に依存しない、均一で安定した塗装品質を実現しています。3R手首によるホース内蔵構造は、ゴミ不良の発生を抑制し、カウリングに求められる高い外観品質を確実に達成しています。
コストの削減
カラーチェンジバルブとFGPのロボットアーム搭載により、色替え時の塗料ロスを大幅に低減。加えて、2台のロボットによるコンベヤ追従塗装で生産効率を高め、トータルの生産コスト削減に貢献しています。
多品種対応力
多彩なカラーバリエーションへの迅速な切替えが可能なため、オートバイ市場の多様なニーズに柔軟に対応できる生産体制を構築しています。
川崎重工が選ばれる理由
川崎重工の塗装ロボットKシリーズは豊富なラインナップを誇り、塗装ロボット国内シェアナンバーワンの実績を持っています。長年にわたり大手自動車メーカーをはじめとする多くの製造現場に塗装システムを納入し、培ってきた高い技術力がその基盤にあります。
さらに、川崎重工ロボットディビジョンの強みは、オートバイをはじめ、船舶、鉄道車両など多様な製品の製造現場で培った知見をロボット開発に活かし、さらに現場からのフィードバックをもとに継続的な改善につなげられる点にあります。
本システムの導入は、こうしたグループ内の技術連携と現場知見の循環によって実現した最適解ともいえる事例です。

おわりに
カワサキモータース株式会社に導入されたオートバイ カウリング塗装ラインは、川崎重工の防爆塗装ロボットによる3工程×2台体制、3R手首によるホース内蔵構造、静電ベル塗装機、そしてカラーチェンジバルブ×FGPによる多色対応を融合させた、オートバイ塗装におけるソリューションです。
Kシリーズによる塗装ラインの自動化で、高品質な塗装とコストの削減を実現いたします。
